鬼平犯科帳 がっかりする話3 瓶割り小僧
2024-08-29


鬼平犯科帳ネタで「がっかりする話」を2回、中途半端になっているので、もう少し続けてみたい。優に100を越える話があるのだからは、どれもが優れた出来ばえというわけにはいかない。何度か書いているように、ある回の話と別の回の話が、辻褄が合わないことも、けっこうある。しかし、それでも全体として、小説、ドラマを含めて、鬼平犯科帳の面白さはとびきりのものだと思う。
 そういうなかで、がっかりする話として、今回とりあげるのは、「瓶割り小僧」だが、これは、実は、作者の池波正太郎が、気に入った話の5つのなかにいれているものなのだ。だから、池波は、この話を非常によくできたものだと考えていたことは、間違いがない。しかし、私は何度読んでも、あまり感心しないのだ。
 話の筋はこんなところだ。
 この話の前のことだが、旗本の息子に小便をかけてしまい、ころされそうになっているところを必死でとめて助けた(最終的には平蔵に助けられるのだが)盗賊の高萩の捨て五郎が、怪我を癒している間に、平蔵に説得されて密偵になっている。そして、足ならしででかけた先で、偶然、盗賊の石川五兵衛を発見するところから、この物語が始まるわけである。捨て五郎は五兵衛の顔見知りなので、同伴していた彦十が五兵衛のあとをつけ、翌日宿屋で逮捕される。
 そして、普段容疑者の取り調べ(拷問に近いことが行われる)に関与しない小林金弥が、取り調べを命じられるのだが、なれないせいか、黙秘する五兵衛にてこずっている。その様子を平蔵は別室からみているわけだが、はっきりしないが、なんとなく過去にあっているような気がしている。自室に帰るときに、お茶を運んできた小者が、茶わんを落として割れてしまう。その音で、昔のことを平蔵は思い出すことになる。
 それは20年前のことだが、京都奉行だった父がなくなって、江戸に帰って家督をついだ平蔵が、用事で麻布にでかけ、刀の研ぎ師の店にたちよったところ、真向かいの瀬戸物屋で子どもと主人梅吉が争っている。子どもたちがうるさいので梅吉は追い払うのだが、一人音松は立ち去らず、自分は客だといいはる。そして、大きな瓶をふたつ買うというのだ。子どもにはとうていもてないし、お金も払えないと馬鹿にした梅吉は、自分でもって帰るという条件をつけて、6文で売るという。音松は4文銭を2枚わたして、「釣りはいらない」という。そして、さあもって帰れ、といわれると、大きな石で、瓶を割ってしまう。「オレのものだから、割るのは自由だ、破片にしてもってかえるのだ」といって、立ち去ってしまう。それをみていた梅吉の義理の弟の浪人赤松が、音松をおいかけ、切りかかる。音松は恐怖で助けてくれと懇願するが、おいかけてきた平蔵に救われるわけである。そのとき、平蔵は、気がついた音松に、「大人を莫迦にするな」「莫迦な大人ばかりではない」と諭し、逃がしてやる。
 そこで、ふたたび20年後に戻り、翌日、平蔵直々の取り調べが行われる。当初五兵衛は前日と同じように平蔵を無視していたが、平蔵を「どこかでみたような」と思い、そして、ついに思い出してしまう。そして、平蔵に平伏してしまうのである。
 平蔵の裁きをみていた小林金弥と筆頭与力の佐嶋にたいして、自分はたまたま彼のことを知っていたので、白状させることができたのだ、といい、音松が義父を殺害して、母を捨てて逃げたという白状にたいして、音松にもっと目をかけてやる大人はいればよかったと語り、赤松は、瀬戸物やの主人である義兄がなくなったあと、あとを継ぎ、平蔵も目をかけてやったと語って、酒になったところで物語が終る。

 ではどういう点にがっかりするのか。

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[文化・生活]

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